ひかりあり
『「のぞみはもうありません。」と面と向かって言われ、私は絶句した。ところが、その人が言った。「のぞみはありませんが、ひかりはあります。」なんと素晴らしい言葉だと私は感激した。このように言って下さったのは、もちろん新幹線の切符売場の駅員さんである。』
この『名言』を、お腹の底から笑い飛ばせる人は、まだ大病をした事のない人か、自分は死なないと思っている人かもしれません。実際の「のぞみはありません。」と言われた事のある人、また、その親族の方々にとっては、一瞬身につまされる言葉だと思います。その言葉を聞いた時から、多くの人は何としても生き延びる事を考え始めます。この薬が良いと言えばお金の許す限り買い求め、せっせと飲み続けます。この療法がよいと言われれば、高いお金を払ってても延命を図る為に涙ぐましい努力を続ける方がほとんどでしょう。私もそうでした。
この言葉を残したのは、【かの有名な】（というのは日本カウンセリングの草分け的な存在で知らない人はいない、また著書を読んでいない人はモグリです。）河合隼雄氏であります。数年前、文化庁長官時代、鶴岡の立派な文化会館でご講演なさいました。私は、教員時代、河合大先生の著書によって、何度危機を救われたか知りません。私は、講演なんていうと最後列でいつでも眠られる準備をして挑むのですが、その時のご講演を最前列で拝聴させていただきました。この言葉は、河合隼雄氏の名言集に載っております。この言葉を、海援隊の武田鉄也氏がラジオ番組で取り上げました。武田さんも河合隼雄先生の大ファンだそうです。そこで紹介されたエピソードです。
河合先生は、講演の為に東北に来ていました。その夜、クライエントから電話が入りました。「先生、俺はもうだめだ。」という、自殺をほのめかすような声。先生は、翌日の講演をそっちのけにしてクライエントの住む土地へ向かいます。深夜の新幹線に乗ろうとします。しかし、会いにいっても自分は何を言ってあげられるのだろうと不安になるのでした。どんな言葉をかければ彼に届くだとうと思った時に聞こえてきた言葉が「のぞみはありませんが、ひかりはあります」という言葉だったのです。そこで先生は、激しく感動したわけです。
「のぞみはもうありません」の言葉の上に、「あなたのお子さんは発達障がいです。支体不自由です。健常者と同じように生活するのぞみはありません。」と言われたご家族にとっては、自らに死病の宣告をされたように思われるでしょう。カウンセリングにいらっしゃる方は、そうした絶望的な体験をしていらっしゃる方がほとんどです。しかし、大きく二つに分けられます。その障がいを受け止め、自分はどうして接していくべきか本気で考え始める方。もう一つは、受け止める事が出来ず、残りの人生をジタバタする人。特に男性の人には申し訳ないのですが、父親が理解できず離婚になる場合が多いようです。
そして、私がここ2.3年、障がいのある方のお話しをよく聞くようになりました。あの会社の社長さんの息子さんは障がいを持っていますよ。とか、あの豊かで家中みんな仲良いお家には、発達障がいのお嬢さんがいるんですよ。と、聞く事がちらほらあります。実は、私の親類にもいるのですが、そのお家は空気が澄んでいるように感じるのです。そこで、逆説的なのですが、他の人からみたら大変ですね、と言われる状況を与えるようなお子さんたちは、実はのぞみはないどころか、その家庭にひかりをともすような存在なのではないかと考えさせられる事が多いのです。
さらにもう一つ、ハンデをもつ子がいたとしても、家の中で、お・い・あ・く・ま（おこる事なく、いばる事なく、あきらめる事なく、くさる事なく、まける事なく、生活する家のもつ空気が清浄な事に気付きます。たとえると、その子は空気清浄器の働きをしてくれるように思います。
カウンセリングにいらっしゃる方は、「のぞみ」がないと絶望していらっしゃるかもしれませんが、「ひかり」があるぞーと叫ぶと、「こだま」も返ってくるところです。
どんなにかなしくても、
どんなにくるしくても、
長い坂道を登るのは、あなた一人じゃない。
同行二人。
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